【市場動向】欧州で加速する建材一体型太陽光発電市場──建物が“発電資産”になる時代、日本市場への示唆とは
これまで建材一体型太陽光発電(BIPV:Building Integrated Photovoltaics)は、実験的な建築プロジェクトや高級建築向けの特殊用途として位置付けられることが多く、太陽光業界全体の中では比較的小さな分野と見なされてきました。
しかし現在、その状況は大きく変わりつつあります。
特に欧州では、BIPVは単なる建築デザインの一部ではなく、都市エネルギーインフラを支える重要な要素として急速に存在感を高めています。背景には、脱炭素政策の強化、都市化の進展、土地不足、電力需要の増加、そして建物自体を“エネルギーを生み出す資産”へ転換していくという新たな潮流があります。
こうした市場変化の中で、太陽光メーカー各社も、建築一体型用途に適した技術開発を加速させています。LONGiは、BC(バックコンタクト)技術がBIPV用途と高い親和性を持つと位置付けており、高効率性に加え、均一で美しい外観や、都市景観との調和性を重視する欧州市場に適した技術として提案を進めています。
欧州が世界最大のBIPV市場に
実際、欧州はすでに世界最大のBIPV市場となっています。
国際的な研究によると、欧州は世界のBIPV市場のおよそ42%を占めており、建築一体型太陽光発電の導入において世界をリードしています。スイス、オランダ、イタリア、オーストリア、スペインなどでは、建物外壁や改修プロジェクトへの太陽光統合が積極的に進められています。
市場規模も急拡大しています。調査会社Grand View Researchによれば、欧州BIPV市場は2024年時点で約96億米ドル規模に達しており、2030年まで年平均33.8%という高い成長率が見込まれています。これは一般的な建設市場の成長率を大きく上回る水準です。
規制強化がBIPV普及を加速
欧州でBIPVが拡大している理由のひとつが、規制強化です。
EUでは、建物分野がエネルギー消費量の約40%、温室効果ガス排出量の約36%を占めており、建築分野の脱炭素化が重要課題となっています。
EUの改正建築物エネルギー性能指令(EPBD)や「Renovation Wave」政策、各国のソーラー義務化政策などにより、建物は単なるエネルギー消費主体ではなく、自ら発電を行う存在へと変化しつつあります。
さらに、欧州特有の都市環境もBIPV普及を後押ししています。歴史的建造物が多く、土地利用が高度に進んだ欧州の都市部では、大規模メガソーラーの新規開発には限界があります。そのため、建物の屋根や外壁など、既存の都市空間を活用できるBIPVへの注目が高まっています。
外壁そのものが発電インフラになる時代へ
近年は、垂直面である外壁への太陽光統合が特に重要視されています。
研究によれば、都市部においては外壁面積の総量が屋根面積を上回るケースもあり、ファサード型太陽光発電が新たな発電ポテンシャルとして期待されています。
また、BIPVは「太陽光パネルを後付けする」という従来の考え方を変えつつあります。BIPVモジュールは、外装材、ガラス、日除け、屋根材など、建築部材そのものとして機能しながら発電を行います。
そのため、建築家や都市開発事業者にとって重要なのは、単なる発電量だけではありません。色調の統一感、反射抑制、質感、透明性、景観との調和など、建築的価値との両立が強く求められています。


日本市場でも高まるBIPVへの関心
日本市場でも、BIPVへの関心は徐々に高まり始めています。
背景には、日本特有の都市環境があります。都市部では土地制約が大きく、大規模な地上設置型太陽光発電の開発余地が限られているほか、近年は系統制約や景観配慮、地域合意形成の難易度上昇なども課題となっています。
また、日本ではFIT中心の市場から、自家消費型・PPA型への移行が進む中で、「限られた建築空間をいかに有効活用するか」が重要なテーマになっています。
特に今後は、物流施設、オフィス、商業施設、公共施設などを中心に、建物そのものを発電インフラとして活用する考え方がさらに広がっていく可能性があります。
一方で、日本市場では欧州とは異なる課題も存在します。建築基準、防火基準、耐震性、台風・塩害・積雪などへの対応が求められるほか、建築コストや施工体制も普及拡大の鍵となります。
そのため、日本におけるBIPV市場は、欧州のように急速な全面普及というよりも、まずは高付加価値建築や環境配慮型プロジェクトを中心に拡大していく可能性が高いと見られています。
BC技術とBIPVの高い親和性
こうした市場環境の変化の中で、BC(バックコンタクト)技術も、BIPVとの親和性が高い技術として注目されています。
従来型セルでは表面にバスバーや配線が見えるのに対し、BCセルは電極を背面に配置することで、より均一で洗練された外観を実現できます。そのため、発電設備としてだけでなく、建築デザインの一部として自然に溶け込ませやすい点が大きな特長です。
特に欧州では、景観規制や歴史建築との調和が重視されるケースも多く、「どれだけ発電するか」だけでなく、「街並みや建築とどう共存するか」が重要視されています。
この流れは、日本市場とも共通点があります。
日本でも近年、住宅密集地、商業施設、公共施設、空港周辺、高速道路沿線などにおいて、景観性や反射対策への関心が高まっています。単純な高出力化だけでなく、「都市環境に調和する太陽光」が求められる場面が増えつつあります。
また、日本市場では限られた屋根面積の中で高い発電量を確保する必要があるため、高効率化の重要性も非常に高くなっています。その意味でも、高効率と意匠性を両立しやすいBC技術は、今後の都市型・建築一体型太陽光において重要な方向性のひとつになる可能性があります。
さらに、BIPVは単なる「モジュール販売」ではなく、建築・設計・都市開発との連携が求められる市場でもあります。今後は、太陽光業界と建築業界の境界が徐々に曖昧になり、「発電する建築」という新たな価値創出が加速していくと考えられています。
欧州市場が日本に与える示唆
欧州市場の動向は、日本市場に対しても多くの示唆を与えています。
特に重要なのは、「太陽光を後付け設備として捉える」のではなく、「建築・都市インフラの一部として統合する」という考え方です。
欧州では現在、建物の外壁や屋根が“未利用空間”ではなく、“発電資産”として再定義されつつあります。これは、都市部の屋根面積が限られる日本市場においても、今後重要な方向性になる可能性があります。
また、景観との調和や意匠性への要求が高まっている点も、日本市場と共通しています。特に日本では、住宅密集地、観光地、歴史地区、公共施設などにおいて、外観との調和性が導入判断に大きく影響するケースも少なくありません。
その意味でも、均一な外観や高いデザイン性を実現しやすいBC技術は、今後の都市型太陽光の方向性と高い親和性を持つ可能性があります。
建物が“エネルギー資産”になる未来へ
欧州市場では現在、「建物はエネルギーを効率的に消費するだけでなく、自らエネルギーを生み出すべき存在」という考え方が急速に広がっています。
BIPVは、限られた都市空間、厳格化する建築規制、景観配慮、脱炭素要求、電力需要増加といった課題に対し、複数の価値を同時に提供できるソリューションとして、その重要性をさらに高めています。
今後、都市インフラとエネルギーインフラの融合が進む中で、高効率性と建築調和性を兼ね備えた太陽光技術は、欧州だけでなく、日本市場においてもますます重要な役割を担っていくと考えられています。


